本稿は,高い教育水準で国際的に注目を浴びるフィンランドの幼児教育において,いかなるシステムや制度のもと,子どもの感性を育むアプローチや実践が行われているのかを,音楽を視点として理解しようと企図した公開講座の内容について,報告するものである。フィンランドの幼児期において音楽,すなわち芸術は,音楽,美術,造形,身体表現・言語表現を含む「多様な表現」領域の一部を成し,それらは互いに往還・融合しつつ,人間性の根幹を形作り,子どもの全人的な成長発達に大きく寄与するものとして,領域横断的な活動の中で取り組まれていることが確認できた。なかでもそれぞれの表現様式の親和性の高さを最大限に発揮した体験的アプローチ等の指導法によって,遊びの中に音楽の原体験を組み込む柔軟性が,フィンランドの幼児教育や幼児を対象とした音楽教育の特筆すべき点であり,我々にとっても大変示唆的であったと言える。