ルドルフ・シュタイナーによる「純粋経験」概念が、西田幾多郎を経て、小林秀雄に受容された様態を検討した。哲学者にして教育学者、神秘思想家でもあるルドルフ・シュタイナーや、その影響下にあったと考えられる西田幾多郎の認識論は、自己の意識経験の外に設定された一切の思考基準の否定と自己の意識経験への一元的な依拠に由来する、一見、個人的、情動的認識姿勢の様相を呈している。しかしこれらは単なる主観主義を超えた地点、すなわち近代の主知主義を乗り超え得る認識の立脚点を目指したものと考えられる。このシュタイナー、およびその影響下にあったと考えられる西田幾多郎、および和辻哲郎の、三者の著作の文言は、小林秀雄の文言にかなり忠実な形で反映されている。その痕跡を示し、一見、感覚的と見える小林秀雄の文言の真意を検討した。