ルドルフ・シュタイナー『ゲーテ的世界観の認識論要綱』の核心部分をほぼ祖述した西田幾多郎『善の研究』、シュタイナー『ニーチェ――同時代との闘争者』によるニーチェ思想解釈の核心部分をほぼ祖述した和辻哲郎『ニイチェ研究』、以上4著作からの決定的な影響のもとに、小林秀雄の批評思想の核心部分が形成された事実を例証した。とりわけ『ゲーテ的世界観の認識論要綱』からの影響は「様々なる意匠」の中核をなす「宿命」概念の形成に中心的な役割を果たしている。西田、和辻の著作にもシュタイナー思想を応用発展させた独創的部分があり、その部分からの影響も確認できる。これらによって小林の目指したところが、近代的客観主義に立つ主格二元論的実在認識の限界を乗り超え、主客一体の統一性を持つ実在認識を目指そうとした、西欧生命哲学思潮の方向と一致することが判明する。