転校生杏がクラスメイトたちからいじめを受け、いったんは自死を決意しながらも翻意して反撃に転じ、主体的に教室の空気を支配するに至る過程は、一九六〇年代から、とりわけ一九八〇年代にかけての欧米におけるフェミニズム動向、ひいては日本におけるそれと連動関係を見せている。杏のたどった、自己を取り巻く状況への反撃と自立の道筋が暗示する真の焦点は、女性の身体、とりわけ男性の視線を介した価値観によって抑圧されてきた性的身体を、女性の主体のもとに奪回するところにあったと考えられる。