キーワード:春琴抄、谷崎潤一郎、芥川龍之介、小説の筋論争、心境小説論争、散文芸術論争 「春琴抄」(昭和八年)に織り込まれた〈鳥〉の名やそれにかかわるエピソードが、作者の芸術観・小説観を象徴する喩として機能していること、またそれが、直接的には芥川と谷崎の間で交わされた小説の筋論争、さらにはその前史となった心境小説論争を中心とする文芸論争への応答の意味をもつことを指摘し、これが文壇に対して谷崎の芸術観を諷刺的に示す〝芸術論小説〟としての側面をもつ作品である事実を提示した。