本研究は、主に第一次大戦と第二次大戦の間、ファシズムとコミュニズムとに分断されて行くかに見えた時代にあって、精神的、文化的ヨーロッパ統合の理念として、カトリシズムを唱えた一群の人物、特にG.Kチェスタトン、H.ベロック、C.ド-ソン、T.S.エリオットの社会的・政治的発言、政治・文化哲学を検証した。世俗化の進行とともに、伝統的教会がキリスト教のメッセージを社会に与えることがますます困難となった両大戦間という時代に、彼らが共有していた、カトリシズムこそが宗教改革以来始まったヨーロッパの崩壊をくい止め、新しい異教時代に入ることから守る処方箋として機能する、という見解、本質的には中世的なクリスンダム(Christendom)という統合理念を展開することができた背景には、プロテスタントにはないカトリック独特の教会観があった。つまり、プロテスタントのように教会を人間が作ったものと考えるのではなく、キリストを頭とする神秘体であり、目に見える方法を通して目に見えない神の恵みを与える、人間を聖化する「秘跡」的共同体という考えである。彼らの多くがプロテスタントからカトリックへの改宗者であった事実は、幼児洗礼ではなく成人後に自分の意志によってカトリシズムを選択したことが、カトリシズムを高く評価する理由となったこを暗示してもいる。彼らはカトリシズムの教会モデルをヨーロッパを共同体として再生させる基盤としなければならないと主張する。世俗化したキリスト教を再び中世盛期のクリスンダムの時代のキリスト教に復元すること、つまりプロテスタントの個人的信仰形態から、カトリック教会の公共的なものに変え、キリスト教が本来持っていた共同体を創造する社会的役割を再確認することが求められていたのである。