昨年度はトム・バーンズが中心をなした1920年代から30年代のカトリック知識人のサークル、およびその出版媒体であったSheed & Ward社の貢献という、いわばジョーンズが身を置いた客観状況を明らかにすることを目指した。今年度は彼らの思想的営為の内実に焦点を合わせカトリシズムとモダニズムの結節点を考察した。
ヴィクトリア時代後期のイギリス知識人のリベラルな思想文化的流れを汲み、不可知論者の集団であったブルームズべリー・グループとは対照的にこの集団は、イギリスのカトリック復興の20世紀における担い手であったG.K.チェスタトンやH.べロックの、社会・経済問題を攻撃的に論じる影響から脱し、フランス・ドイツのカトリック思想家との交流から、カトリシズムの美学・哲学を問うようになった。その理念に多大な影響を与えたのはジャック・マリタンであった。特筆すべきは彼の『アートとスコラ哲学』(Art and Scholasticism)であり、これは第一次世界大戦に従軍した後に、カトリシズムに改宗したジョーンズが若き時代に行動を共にしたエリック・ギルらの「ディッチリング共同体」では、第二の聖書として常に読まれ論じられた。
現代と中世を結ぶ新スコラ学の代表であるマリタンは、アリストテレスに依拠しつつ行為(プラクシス)と作ること(ポイエーシス)を分け、前者は道徳、後者は美学によって統御されるとした。これによってアートは道徳的制約から切り離され、没目的性と無償性を本質とする位相に行きつく。Id quod visum placet「ただ見ることで喜びを感じるもの」というトマスによる美の定義に賛同するジョーンズは、アートの原型をカトリック教会の「秘跡」のアナムネーシス〔キリストの贖罪の想起〕とアナセマタ〔捧げもの〕に見出し、芸術と信仰との間にあった緊張を解くことになったのである。