本研究の目的は、市場創造の新しいパターンとしての「エフェクチュエーション」(サラスバシー)のモデルにもとづいて、伝統産業、観光、小売商業などの地域発の起業、事業創造のプロセスを解明することである。理論的には、マーケティングのイノベーションとして起業を理論化し、実務的には、それにもとづく地域創生等の展開をめざしている。
2019年度の研究では、第1に、前年度に引き続き、起業家へのインタビュー調査を通じて、特に流通におけるイノベーションのパターン類型を明らかにし、流通学会全国大会で発表した。流通イノベーションのパターンには、マッチングにおけるイノベーション、価格情報の提供というイノベーション、新取引形態の創造というイノベーションに分類できるという見解をまとめ発表した。流通イノベーションの包括的な枠組みとしてはまだ不十分であるが、イノベーションの方向性を示したと言える。
第2に、小売サービスを中心に、従業員満足度とその規定要因についての統計的実証研究をすすめた。従業員満足度の多次元性に注目して、内部サービス品質の各次元が従業員満足度の各次元に影響を与えるか、従業員満足度の各次元が外部サービス品質の5次元(物理的状況,信頼性,人的相互作用,問題解決,ポリシー)に影響を与えるか、内部サービス品質の各次元が外部サービス品質の各次元に影響を与えるか、についての検討をすすめている。その成果の一部は流通学会全国大会で発表した。
第3に、京都ものづくりバレー構想の研究と推進寄附講座の活動を通じて、起業家との共同研究、起業家をとりまくエコシステムについての検討もすすめた。定期的に起業家等を招いた研究会を開催した。