古代中国の詠雪の詩賦では、雪が玉、柳絮や蝶などに譬えられ、雪の美的世界への沈溺が抽出される。しかし、紀古麻呂「望雪詩」では、無為の統治を目指す天皇が登場し、雪が出現させる美的世界は、錯覚がもたらす幻影であり、そのようなものに惑溺するのではなく、雪の中でも枯れることのない不変の志を抱く賢臣をもとめるのが、天子のあるべき姿だと主張される。漢詩創作は述志だとする古代中国の考え方に学んだ古麻呂は、詠物詩に対する反措定として本詩を創作したとみられる。