大来皇女歌の「馬疲尓」という表現は、弟のいない都に帰ってきた自らの徒労感を、馬に託する形で表出している。これは『文選』などの古代中国文学における辺塞詩に見られる表現の型である。辺境へ旅する苦難や疲労が、「馬疲」「疲馬」などのように、自らが乗る「馬」に託する形で表出される。大来皇女歌は中国辺塞詩を受容した可能性が高い。