『万葉集』弓削皇子への献歌三首の歌群は、遠く離れた男女が、「雁の声」を鍵語とされており、雲に隠れて鳴く「雁の声」が遠方の恋人への想いをかきたてるという発想を有する。柿本人麻呂は、漢籍における「雲雁」の語句を学び、漢籍に造詣が深かったと見られる弓削皇子の志向にあわせ、漢詩文的な世界を和歌によって詠出したと考えられる。