藤原宇合「暮春曲宴南池」詩には、宴から「不忘帰」の志が表現されている。これは、通常「忘帰」の情を詠う宴讃美の型から逸脱した特異な表現である。藤原宇合は、古代中国の隠逸思想に学び、「曲宴」という志を同じくする者同志の宴会の場から、あえて俗世の中心へ「帰」り、真の隠者として「朝市」に生きる志を詠出したと考えられる。