大津皇子の「春苑言宴」詩という詩題は、「言宴」という語句の例が漢籍に見出せないとして、江戸期より誤字が疑われ、群書類従本「春苑宴」と修正された経緯を持つ。しかし「言宴」は親和的なくつろぎの場を表す語句として、六朝から初唐にかけての漢詩文に見出すことができる。当該詩には、懐風藻詩に多い天皇賛美ではなく、列席者との場の親和的共有が表出される。大津皇子は、天皇賛美を主題とする「侍宴」詩に対置するものとして、君臣が同列で親しむ関係を確認する「言宴」詩を志向したと見られる。