本稿は、楊村彬の話劇作品『秦良玉』と『光緒親政記』を中心に、その歴史劇作品の創作活動と時代背景に関する考察を試みるものである。まず、『秦良玉』と『光緒親政記』の上演に関わった人物(役者・演出家など)の関係を整理し、その基本状況を概説する。次に、台本に基づき、複数のシーンをピックアップして、そのストーリーの展開や登場人物に関する分析や比較を行う。最後に、当時の話劇や映画などの抗戦文芸における歴史劇というジャンルの状況を踏まえ、楊村彬の歴史話劇の創作動機や背後にある政治的・社会的文脈に関する検討を行う。一見戦争題材ではないが、『秦良玉』と『光緒親政記』のいずれも戦争を寓意した恰好の抗戦文芸であり、抗日話劇プロパガンダである。当時において、中国は亡国という最大の危機に瀕していた。民族が一致団結して、日本の侵略を撃退しようという意識を最大限に高揚させようという最も重要とされる政治的・社会的文脈を背景に、楊村彬の歴史話劇が創作されたといえよう。