本稿では、戦時下中国で抗戦話劇を演じた反戦日本人と対象とし、彼らの話劇活動を取り上げ、さらに中国人作家丁玲が創作した話劇作品『河内一郎』をそれと関係させて比較的分析を行った。筆者は上記のような事象(実在の人物や作品中のキャラクター)を「特殊な代弁者」として位置づけ、その背景と意味を考察した。反戦日本人たちはプロレタリア文学作品を参照しながらも、自身の日本や中国での様々な実体験に基づいて抗戦話劇を創作し、上演に務めた。舞台には日本の民謡や踊りも取り入れ、大きな反響を呼んだ。舞台の稽古や公演には、抗敵劇社や魯迅芸術学院などの関係者の指導や支援を受けた。公演にあたっては、毛沢東をはじめとする幹部たちも観劇に来て、根拠地の各機関からも歓迎された。丁玲の『河内一郎』は、西北戦地服務団の任務の一つとして創作されたものだが、共産党側の政策や主張が積極的に織り込まれており、極めて強い政治性や意図を反映したものである。