本稿は、中国共産党根拠地の一つである晋綏辺区における紙幣製造について、洪涛印刷厂による西農幣(西北農民銀行発行の紙幣)の印刷を事例に、当時の状況を考察するものである。1940年晋西北行政公署財政署の指導のもとで設立された洪涛印刷厂は、晋綏地区の通貨である西農幣の印刷・製造を担った。そこでは、厳しい経営管理の規定に従い、従業員全員が守秘義務を厳守し、特殊製品である紙幣の生産に取り組んだ。印刷用紙やインクなどの生産原料が極めて入手困難な状況のなか、従業員らによる発明が盛んに行われ、不足している設備を自ら造り、印刷工程において様々な工夫が凝らされ、製造現場の難題に対処し、克服していた様子がわかる。そして、このような紙幣の印刷・製造は辺区の金融財政の重要な一環となり、根拠地の長期にわたる抗日闘争を支えていた。