冥府を描く江口夏美のマンガ『鬼灯の冷徹』(二〇一一年~、講談社)には、様々な古典文学作品中のキャラクターが登場する。本作で登場する小野篁は難字を読み解いた伝説で知られ、「頭脳明晰」の性格が長い間付与されてきたが、それとの関連性の強い冥官説話が本作の起点となっている。ただし、多くの説話類が採用する閻魔王の補助役ではなく、本話は極めて合理的理由から秦広王の第一冥官に設定変更されている。
一方で閻魔王冥官としての篁も現代小説では健在であり、加門七海『平安朝妖異譚くぐつ小町』(一九九九年・河出書房新社)および鈴木麻純『六道の使者―閻魔王宮第三冥官・小野篁』(二〇一一年・アルファポリス)の二作品を中心にとりあげ、「古典キャラクター」である小野篁の現在とそこに至るまでの経緯の一端を明らかにする。加えて、エンタメの世界における啓蒙的な古典の「教養」が古典作品にアプローチするための逆回路たり得ていることを指摘した。