井原西鶴『懐硯』(貞享四・一六八七年三月刊)は、非僧非俗の伴山の諸国行脚見聞記の体裁をとる浮世草子作品である。本作は、日本各地の奇談異聞集としての性格から、『西鶴諸国はなし』(貞享二・一六八五年正月刊)の後続作品と見なされてきた(暉峻康隆氏『西鶴評論と研究』上 一九四八年・中央公論社等)一方で、西行、宗祇、竹斎、一休、楽阿弥(『東海道名所記』)、といった出家僧による「諸国行脚もの」の系譜としても読まれてきた。 後者については、近年平林香織氏による詳細な考察(「旅物語―「伴山」の役割―」『誘惑する西鶴 浮世