『昔物語治聞集』(貞享元・1684年11月刊)は、オリジナルの説話作品ではなく『宇治拾遺物語』から52話、『古今著聞集』から94話を採録した作品である。前者は寛永期(1624‐44)に古活字版ならびに万治2(1659)年10月に製版本が刊行されていたのに対し、後者は元禄3(1690)年正月の発刊前においては説話本文に接することのできる貴重な機会であった。本稿では近世説話の歴史的展開を考察する契機として、中世説話の享受のあり方を粗描する試みである。