絵譜のルーツは,1927年にドイツで音楽教師ヘリベルト・グリューガーと 画家ヨハネス・グリューガーの兄弟によって考案された歌曲集Liederfibelである。グリューガー兄弟の考案した絵譜が日本で隆盛を極め,改良が繰り返されたが,五線譜への移行にこだわりすぎた結果,衰退していったという事実は,ドイツ語圏では知られていない。一方,絵譜を読譜教材として多用した経緯があるにもかかわらず,その原点ともいえるグリューガーの絵譜が,どのような時代背景の中で,どのようなコンセプトをもって生み出され,どのような評価を受けてきたのかについても,日本では知られていない。
ヨハネス・グリューガーの描いた絵譜のオリジナル作品を所蔵するドイツのトロイスドルフ絵本博物館において,1986年に “ヨハネス・グリューガーの絵と絵本”展が開催され,そのパンフレットには 兄ヘリベルト,弟ヨハネス本人による寄稿や,彼の作品や偉業についての包括的な資料が掲載されている。さらに所蔵されているLiederfibelのオリジナル原画からも,ヨハネスの描くモティーフの大らかさを示す絵画的特徴や,楽譜としての音楽の再現性を追求する姿勢等の痕跡をみることができる。
本発表では,ヨハネス直筆の絵譜作品の写真や, 回顧展資料の具体的内容を示しながら,グリューガーの絵譜の考案に至る思想やコンセプトを考察していく。