本発表は,日本の小学校音楽科教科書における絵譜の絵画的側面に焦点を当て,その変遷と特徴を明らかにするものである。公益財団法人教科書研究センターの附属図書館である「教科書図書館」に所蔵されている20社の民間編集の検定教科書から絵画的要素の高い絵譜を抽出し,出版社毎の取り扱いや様相を調査した。その結果,日本独自の発展が確認された。その特徴として「挿絵と一体化し,歌の世界観を表現した絵譜」「絵譜の部分的使用」「鑑賞教材での絵譜の活用」「模索する絵譜の傾向や活用」,さらには読譜指導に役立つ絵譜を追求するあまりその最大の魅力ともいえる絵画的要素を喪失していく様が捉えられた。結論として,①日本では学校教育現場での喫緊の課題に応えるため次第に絵画性が損なわれたこと,②多くの教育者らによる教科書検定を経て,変化に富んだ絵譜が多く生み出されたことが明らかとなった。