前稿「聖語藏の『寶雨經』―則天文字の一資料―」(『敦煌寫本研究年報』8)では、東大寺尊勝院の經藏であった聖語藏に傳わる『寶雨經』(卷二・卷五・卷八・卷十 )を取り上げ、そこでの則天文字の使用に着目し、原本の書寫年代や日本への移入について檢討した。この聖語藏の『寶雨經』は、光明皇后の發願になる天平十二年(740)五月一日の奧書をもつ、いわゆる「五月一日經」の一部として書寫されたものであるが、同じ五月一日經の『寶雨經』のうち卷九のみ、東京國立博物館に所藏されている。東博本の卷九は冒頭部分と末尾の寫眞三枚しか公