これまで敦煌莫高窟の唐代壁画の時代区分は、吐蕃による占領(786年)を境に前後二期に大別してきた。さらに文学史の四変説を適用して改変した初唐・盛唐・中唐・晩唐の時代区分が現在まで用いられている。そのうち初唐は武周期までとし、それ以降を盛唐としている。しかしながら、莫高窟の壁画は、いわゆる盛唐とされてきた時期に大きく変化しており、一方で、初唐と盛唐の境は曖昧である。そこで本発表では、西方浄土変とそれに付属する十六観図、および弥勒変相図の変遷を具体的事例として取り上げ、敦煌唐代壁画の分水嶺は、これまで盛唐とされてきた期間の中にあるとの試論を提示する。