阿弥陀浄土の場景を造形化した西方浄土変は、唐代に入ると俄かに制作数が増加するだけでなく、絵画的にも大きく発展し、前代までのものとは大きく異なる大画面で複雑な内容をもったものへと変化する。これら唐代に出現する新式の西方浄土変について、従来は基本的に『阿弥陀経』と『無量寿経』にもとづく図相であって、『観経』とは基本的に無関係に成立したものであり、『観経』の要素が本格的に加わるのは、浄土景の外縁に『観経』の未生怨説話と十六観の説明的図相を加えた形式が一般的となる盛唐期以降と捉えられてきた。しかし実際には、外縁のない浄土景のみの初唐期の作例において、『観経』だけに記される特徴的な図様表現が複数含まれており、『観経』の要素はすでに初唐期から認めることができる。本発表では、これらを確認したうえで、唐代西方浄土変の出現と流行が、道綽による有相の積極的な解釈と、『観経』に導かれた観想の実践および教化の結果、生み出された可能性について考察する。