本研究では,長年にわたり小学校音楽科授業を行ってきた一人の熟練教師に焦点をあて,教職生活の振り返りをとおした個人史を再構成し,力量形成の構造と要因を考察することを目的としている。ライフ・ヒストリー法を用い,音楽科の特質をふまえた考察を試みた。研究の結果,音楽科における教師の力量形成の構造は,「音楽科授業観の萌芽の形成」→「音楽科授業観の再構成」という過程として説明することが可能となった。さらに,音楽科授業観の再構成の本質は複合的なテーマの組み替え作業であるといった解釈が成立した。