本稿は読譜教材として戦後日本でも使用されてきた絵譜の再評価を目指し,その発祥の地ドイツにおける絵譜の研究を紹介,検討するものである。絵譜にみられる音楽と絵の融合が,どのような歴史的・文化的背景の中で醸成されたのかを,文献や作品をとおして描出しようと試みた。
20世紀初頭のドイツでは,絵譜にみられるような,音楽を感覚的に把握し,可視化しようとする試みが盛んであった。また,その中に息づく芸術的・教育的思想は当時の最先端をいくものであり,絵譜の考案者であるグリューガー自身が同時代の教育者や芸術家から多くの影響を受けながら絵譜の考案に至ったことが理解できた。ドイツにおける絵譜は,自国の文化から生まれた所産であるが故の強みと存在意義を呈しているといえよう。我が国の音楽教育においても,新たな教育的視点をもって,絵譜を用いる可能性が示唆された。