本発表では、サリンジャーの作品における「語り」に注目し、その語り手が様々な方法で読者の読みを誘導していくメカニズムを明らかにしている。サリンジャーは、「グラス家物語」と呼ばれる一連の物語群の中で、それより過去の作品「バナナフィッシュにうってつけの日」という作品で描いたシーモアという人物を書き換えようとした。「グラス家物語」の中で、実は「バナナフィッシュ」の物語には語り手がいて、その語り手は当時信用のおけない精神状態にあったと指摘したのだ。サリンジャーのこの言葉には、過去の作品で描かれているシーモアを抹消し