グルココルチコイドレセプター(GR)とミネラルコルチコイドレセプター(MR)のリガンド特異性についての実験を行った。GRはデキサメサゾン、コルチコステロン、アルドステロンに対しては細胞質・核移行を生じたが、エストロゲンには反応しなかった。MRはデキサメサゾン、コルチコステロン、アルドステロンの他に、プロゲステロンに対しても細胞質・核移行を行った。細胞質・核移行にどのような分子シャペロンが関るのか検索した。geldanamycinは熱ショックタンパクHSP90と結合することによって、シャペロン機能を阻害する薬物である。Cos細胞において、GRとMRはいずれもgeldanamycin投与によってリガンド投与による細胞質・核移行が阻止されたことから、HSP90がその輸送に強く関っていることが明かとなった。しかしながら、海馬培養細胞においては、コルチコステロンのリガンド投与による細胞質・核移行はgeldanamycinによって阻止されなかった。このことから、cos細胞と海馬ニューロンではHSP90の関与が異なることが明かとなった。ER(α、β)やPRなどはリガンドがない状態でもすでに核に分布しており、リガンドが作用すると核内のリセプター分布様相が変化し、ほぼ均一に分布していたレセプターが細かい粒状の斑点状になった。二重免疫染色したところ、ER(α、β)の斑点はRNApolymeraseIIの部位とは一致せず、むしろクロマチンのリモデリングに関る分子であるBrgと一致していた。また、ERαとβはリガンド添加(エストラジオール)によって核内でほぼ同じ部位に存在し、両者によるFRET形成が観察されたことから、これらもヘテロダイメライゼーション化していることが示唆された。
以上から、FRETによってリガンド依存性転写因子である核内レセプター群の分子どうしの相互作用が可視化された。