コメニウスは「近代教育学の祖」と称されてきた。しかし、それは啓蒙主義の興隆を受けて国民教育制度が成立した欧米19世紀において生じたものである。コメニウスは、書物が人々に影響を与え、その影響への反応がまた書物として表出され、その繰り返しによって思想が空間的・時間的に伝播する過程を「生ける印刷術」と名づけた。本書は、彼の歴史的洞察を彼自身に適用し、彼を巡る言説の歴史の概観を試みたものである。とくに、啓蒙主義、国家主義、共産主義により、彼の宗教的・哲学的側面が看過されてきた過程を追った。