2023年が、コメニウスが青年期に著し、チェコ語文学の古典と見なされている『地上の迷宮と心の楽園』の執筆から400年となることから、コロキウムのテーマは「コメニウスの迷宮」とされた。私は、「コメニウスにおける迷宮の哲学的含意」と題し、チェコ語で発表を行った。コメニウスは、青年期から最晩年に至るまで、「迷宮」という語を世界理解における鍵概念として用いた。青年期の『地上の迷宮と心の楽園』ばかりが注目される傾向にあるが、晩年の遺言の書とされる『必須の一事』や『学校という迷宮から平野への出口』といった作品でも、「迷宮」という語が多く用いられている。私は、それらがコメニウスにおける経験論的側面を示す用語であることを示したうえで、迷宮としての世界という理解が、プラトニズムの批判的受容によって導かれたことを論じた。そして、「迷宮」を所与の状況としてとらえるデューイの楽観的な見解との対比をとおして、コメニウスには知性主義の偏重が世界の迷宮化を深めるという認識があったことを示した。17世紀ヨーロッパを代表する知識人の一人である彼には、当時の大学をはじめとした知的実践に対する強い批判があり、むしろ新たな技術を生み出す職人を高く評価していた。そうした視点から彼の教育構想を見直すと、コメニウスのうちに、知性による世界の迷宮化にいかに対処すべきかという問題意識が一貫していることが読み取られると論じた。