チェコ17世紀の思想家ヨハネス・コメニウスと日本人との出会いは,これまでのところ,漂流民ゴ
ンザが18世紀前半にロシアでコメニウスの教科書を翻訳したのが最初であると考えられている。本論
文は,ゴンザ以前のエピソードの検討に関する中間報告である。コメニウスの友人ヨーン・ヨンスト
ンとコメニウスの論敵であるロデウィク・マイエルの著作は日本で受け入れられ,蘭学と洋学の発展
にかなり貢献したのに対して,ゴンザに先立つ記録は見出されなかった。これは,コメニウスのテク
ストにとって近世日本の文化的障壁がやはり険しかったことを示唆していよう。未発掘の史料に対す
る調査の進展が期待されるとともに,コメニウスのテクストに関連する情況証拠や間接的影響が考察
される必要がある。