太宰治の〈女性独白体〉のひとつ「恥」は論究されることの少ない作品の一つであるが、同時期の他の〈女性独白体〉の作品と照応すると、興味深い一面がみえてくる。詳細に語り手の心理を分析することで、語り手の複雑な心の内に隠蔽されていた〈性〉の欲望を明らかにした。更に当時傾倒していた『聖書』の〈タマルの恥〉と比較しつつ、〈性〉をからめた〈恥〉の内実を読み解いた。私生活と作品をあえて重ねて、読者の想像をかきたてる太宰の手法と共に、当時作者と読者の関係を、書簡体小説というかたちで、太宰が探っていたことについても論究した。