短い交流の期間の中であっても、その文学観において火花を散らし、影響と反発を抱いてきた詩人・富永太郎と中原中也は、共に〈聖母〉とも「ファム・ファタル(宿命の女)」ともいえる女性を、その生涯に有している。二人の詩世界に登場する〈聖母〉を鍵語に、その詩観を比較し、詩世界へのあらわれを読み解いた。殊に富永太郎については、神奈川近代文学館所蔵の実刊行資料からはフランス文学への関心とその内実を、そして2019年度に中原中也記念館で開催された特別企画展「富永太郎と中原中也」展で発見された新資料から、日夏耿之介への関心を明らかにし、それがどのように富永の詩世界に描出されるのかも検証した。