これまで富永太郎の伝記的な側面については、大岡昇平による著作に頼るほかなかったが、神奈川近代文学館所蔵の未刊行資料を踏査し、また富永家の血脈の源流の地・木曾から尾張地方を現地調査して、新たに出会ったご遺族からの聞取りや、当地の郷土資料の発掘を通して、これまで見過ごされてきた富永太郎の伝記における大岡の記述及び認識の間違いを正した。そして、数百年間にわたって木曾を支配した一族の末裔であった富永太郎の複雑かつ屈折した家意識を明らかにし、それが詩世界にどのように反映されているかを考察した。