大岡昇平により、サンボリスムの詩人としてのイメージが定着してしまった富永太郎ではあるが、彼が観ていた舞台芸術の詳細を未刊行資料から調査したところ、前衛的なものへの志向と、かぶきをはじめとする前〈近代〉的なものへの志向が併行していることが明らかになった。一見すると撞着と思えるこの志向に隠された意味と、当時の新興芸術思潮が内包していたものとあわせて考察し、東西の相克の問題を抱えていたこの時代の青年たちの特異な感受性と、その背後にある〈時代〉の動きについて論究した。