チベットの宗教文化が捉える命と、病と、治療を概観し、そこからホリスティックということについて考察した。『大日経』では、悟りに至りその業寿を滅したあとも再び生を与えて衆生済度に赴くことを説いている。そして阿(A)字という種字を観想し、身体に布置することで命をもつ我が身を空じ、仏となると捉えることから、仏教における命とは仏果を得て、衆生済度に向かうその連続性としての命であり、仏の寿命である。またチベット医学が病と命に向き合い、さらに鬼神による病に対応するためにシャーマンや占星術なども含めて命を脅かす存在と向きあっている様子から、現在、ホリスティックと言われる全体性とは、この文化においてマンダラの宇宙観や、悟りを得て仏となり衆生済度に向かう存在としての命と、鬼神の調伏までを含む一つの世界観で貫かれている。このような営みの中で命をとらえることがホリスティック(全体性)なのではないかと考察した。