藤枝晃氏は、敦煌文献のなかに「長安宮廷写経」と呼びうる写経群が存在することを初めて指摘され、その特徴や性格を明らかにされた 。しかし藤枝氏以降は、これらの写経群に関する研究はとくに進展がみられず、それらの写経群がなぜ敦煌に伝来するにいたったのかという点については、わずかに官寺の介在が指摘されるのみで、それ以上には考究されていない 。そこで本発表では、隋唐期に敷かれた諸州官寺制に目を向け、蔵経洞発現の敦煌文献のなかに「長安宮廷写経」が見出される所以を考察した。