勧修寺繍仏とも呼ばれる奈良国立博物館所蔵の繍仏は「刺繍釈迦如来説法図」という名称で、奈良時代または中国・唐時代(八世紀)の作として国宝に指定されている。しかし本図は銘文や文献記録を欠き、その主題をめぐって諸説あり、いまだ定説をみていない。そこで小論では、本図の主題および制作地と制作年代に関する従来の研究を整理し、そのうえで本図の主尊が倚坐形であることと、下部にあらわされた十人の比丘像に注目し、本図が下生の弥勒仏として易姓革命を実現した則天武后とその翼賛僧に関わる可能性を指摘する。